研究概要 |
現在,有機塩素化合物による土壌・地下水汚染が深刻な社会的問題になっている。土壌・地下水汚染は汚染源である有機塩素化合物自身が高い毒性を有しなおかつ化学的に非常に安定であること,さらにこの有機物が土壌に強く吸着しているために,それらが大気中または溶液中に存在している時と比較して処理する上で難処理性が高い状態を有しているものと推測される。本研究では,超音波キャビテーション作用が物理・化学の両作用を有することに着目し,超音波照射による固体粒子からの汚染有機化合物の脱着(抽出),分解同時処理の可能性について検討した。 最終年度に当たる本年度は,土壌成分の一つである無機成分カオリンに有機塩素系除草剤MCPA(4-クロロ-2-メチルフェノキシ酢酸)を吸着させた模擬汚染土壌を作成し,この模擬土壌と蒸留水を固液比1:10で混合した懸濁液に対して超音波を照射したときのMCPAのカオリンからの脱着挙動および分解(脱塩素)挙動について検討を行った。最初に比較として,超音波照射なしで懸濁液を4hr静置したところ,脱着した割合は10%程度であった。一方,周波数500kHz,出力21Wの超音波をアルゴン雰囲気下で懸濁液に照射したところ,照射時間5minでMCPAの80%以上が液側に脱着することがわかり,超音波照射による脱着促進が確認された。また,脱着したMCPAは超音波の化学作用により分解し,脱塩素率ベースの分解率を調べたところ,反応時間6hrにおいて,模擬土壌に吸着していた約70%のMCPAが分解していることがわかった。以上により,超音波照射による土壌から有機塩素化合物の脱着・分解同時処理の有効性を明らかにした。また,酸素雰囲気とアルゴン雰囲気存在下で比較検討を行ったところ,MCPA脱着速度に大きな差異は認められなかったが,脱塩素(分解)速度に関してはアルゴン雰囲気の方が効果的であることが示唆された。
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