研究概要 |
タンパク質の天然構造は、数多くの準安定構造との平衡状態にあり、非常に揺らぎやすい性質をもっている。この「柔らかな」立体構造には、タンパク質が機能発現に際して引き起こす大きな構造変化と密接な関わりがあると考えられており、これまでから、高圧NMRなどを用いて、タンパク質構造が大きく揺らぐ部位の同定がなされてきている。研究代表者は、高圧下で生体高分子フィラメントの構造揺らぎを制御しながら、顕微観測を可能にする「高圧力蛍光顕微鏡」を開発した。小型の高圧光学容器(ステンレス製:5.2x5.2x3.4cm)には2つの観測窓が空けてあり、容器内に封入した0.17mlのサンプル溶液を観測できる。観測窓の窓材には、耐圧性と高解像度の顕微観測を両立させるため、厚さ0.5mmのダイヤモンドを採用し光軸方向の厚みをおさえた。この高圧容器を倒立型顕微鏡(IX71, Olympus)にとりつけ、長作動距離の対物レンズ(SLCPlanFl 40x, Olympus)を用いて顕微観測したところ、蛍光染色した微小管の落射蛍光像を観察することに成功した。100MPa(1000気圧)の圧力下で、キネシン-微小管系のin Vitro Motility Assayを行ったところ、滑り運動が20%低下することが明らかになった。今後は、多くのタンパク質が変性しはじめる400MPaの耐圧性をもつ高圧セルを開発すると共に、圧力添加による構造揺らぎと機能発現過程との相関を明らかにする研究を行っていく。
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