研究概要 |
上記研究目的を達成するため,本年度に取り組んだ研究は,取引費用を考慮した投資プロジェクトの評価や,自己株式取得政策の評価である. 投資プロジェクトの評価に関しては,企業の設備規模の拡張と縮小の両方向の変更問題を考察した.設備の規模を変更する際には,変更規模とは独立に定まる調整費用と,規模に依存して定まる2種類の調整費用を考慮した.規模に依存して決まる調整費用は,非線形の調整費用を考えるため,先ず,2次形式で定まる場合を考察した.また,企業が設備を用いて生産する財は,コブダグラス型生産関数により生産され,生産物の価格が確率微分方程式に従うとした.このような設定の下,企業の問題を考察するために,企業の期待総利潤最大化問題を確率インパルス制御問題として定式化した.分析の結果,準変分不等式から導き出される政策が,最適な政策であることを示した. 一方,自己株式取得政策の分析においては,インパルス制御理論を応用し,自己株式取得の実施時刻と取得額を求めた.分析においては,自己株式取得額の期待総割引現在価値を最大とする企業の問題を考えた.また,デフォルト現象などを考慮し,自己株式取得の原資となるキャッシュリザーブの水準が,離散的に変動する場合を分析した.これを表すために,キャッシュリザーブがジャンプ拡散過程に従うとした.以上の自己株式取得政策の分析と平行し,非線形の制御費用の分析の第一歩として,インパルス制御理論において,主体の毎時発生する費用と制御費用がともに2次形式で表される費用最小化問題を考察した.考察の結果,準変分不等式から導き出される政策が最適な政策であることを示した.この成果を,先に説明した投資プロジェクトの評価に応用している.
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