平成16年度は、前年度の調査結果を再検討し、今後の研究方向を模索することが中心的な作業となった。前年度に収集した、ジョーゼフ・コンラッドの(女性人権活動家)加藤寿々子による戦時中の翻訳の意義を考察するために更なる文献調査を行ったが、加藤が作家ではなく編集者であったという事情もあり、文献資料の収集は滞ることとなった。そのため、実証主義的な作業はひとまず棚上げし、英文学の日本語への翻訳という営為に関する理論的な作業を行うことにつとめた。具体的には、私たちにも馴染みの深い「対訳」という形式--外国語の原文とその翻訳を対にした出版物--が、一見極めて伝統的でありながらも、例えば韓国系アメリカ人女性アーティスト、テレサ・ハッキョン・チャの著作『ディクテ』(1982年;邦訳2003年)における「対訳」形式の意図的なずらしによる根元的なラディカルさの確認作業を念頭におけば、実は極めて刺激的かつダイナミックな営為であり、なおかつ(反)植民地主義的でもありうることを考察した。この考察の結果は、平成17年3月19日から21日にかけて、筑波大学で開催された国際セミナー「日本および東アジアにおける英米文学の受容と変容」(http://parole.lingua.tsukuba.ac.jp/bungaku/indexl.htm)、において、"Let Us Open Our Paragraphs"(英語による口頭発表)において発表した。なお、この発表をも含めたセミナー参加者の口頭発表とその記録は、来年度以降にプロシーディングスとして出版される予定である。
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