研究概要 |
まず,昨年度に引き続き,入間市博物館所蔵「友野家文書」の閲覧とデータの加工整理をおこなった。友野家は,平成5年度前後まで営業していた小規模な酒造家であり,江戸末期から昭和22年ころまでの酒造経営,酒造組合,税務署関連資料を数多く残している。今年度はとくに酒造組合と税務署関連の閲覧に力を入れた。その結果,酒造講習会の内容や税務署の技術指導,酒類品評会の実施方法とその結果などについて詳しいデータを収集することができた。 また,今年度は埼玉県深谷市の株式会社田中藤左衛門商店の史料を閲覧することができた。田中家は,平成16年まで酒造業を経営していた近江日野商人であり,昭和40年代まで支配人制度を採用していた。支配人制度とは,オーナーが日野の居宅に住んだまま,関東地方など遠方の店舗経営を支配人に任せる制度である。田中家文書には,その様子を知ることのできる「店則」や「工場規定」が含まれていた。それらに加え,「元方帳」や「店卸帳」など酒造経営に関する史料も発見できた。現在,それらの一部を借り受け,分析を進めている。 上越市の頸城区総合事務所では,故坂口謹一郎氏(元東京大学教授)の残した史料を閲覧・撮影した。ここには,江戸〜昭和初期における酒造技術の変化を確認できる資料が数多く残されている。また,坂口氏が酒造技師の先輩から聞いた話のメモ書きや酒造組合から送られてきた清酒成分の分析値など,他では得られない情報があり,たいへん参考になった。 さらに,柏崎市立図書館では,越後杜氏の都道府県別出稼ぎ者数や出身村の分布を調査した。これにより,平成15年度より続けている杜氏の研究がさらに進んだ。
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