研究概要 |
本研究では、アメリカの社会保障制度の検証から、貧窮や障害といったニーズのみならず、「高齢」、すなわち一定年齢以上であることを理由に高齢者を特別に支援する根拠を探った。 本年度は、初年度の研究成果に基づき、さらに集中的に資料・図書の収集と整理に勤めた。とりわけ、メディケア(高齢者と一部の障害者のみに公的医療保障を提供)創設以来最大の改正が2003年12月に行われたため、その最新動向について、アメリカの第一次資料を収集・整理・研究した。 さらに本年度は、高齢者を社会保障の対象とする根拠を探求するにあたって、医療保障、所得保障、介護保障など、保障対象ごとに異なりうる保障の原理的根拠や範囲を検証した。なかでも所得保障である年金保険を研究することにより、医療保障であるメディケアと対比した。これらの研究は、北海道大学社会法研究会などで発表した。 2005年3月には、高齢者法の教育・研究が進んでいるUniversity of Hawaii, William S.Richardson School of Law(ハワイ大学法科大学院)のHealth, Elder Law, and Pro Bono Programs(UHELP)を視察した。そして、高齢者法の研究者であるJames H.Pietsch教授等へのインタビュー調査を行い、アメリカの社会保障制度が高齢者のみを特別に支援する根拠について意見交換するとともに、メディケアを含むアメリカの高齢者法の最新動向について伺った。これにより、本研究がアメリカの現状を正確に捉えていることも確認できた。 本研究は、市場機能の強化を推進してきたアメリカが、高齢者の医療保障に市場機能を導入することの困難さを経験し、他の世代よりも手厚い公的な保障を高齢者に提供してきたことを明らかにした。しかしその根拠の解明は難しく、さらなる研究を続ける予定である。
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