本年度は、昨年度に引き続き、1汚職の損害2国際的な汚職対策の発展過程につき、より詳しく検討を加えた(詳細は後掲論文参照)。 1 汚職による損害という観点からは、わが国において、汚職-典型的には賄賂罪-を論じる場合には、公務に対する国民の信頼や、公務の公正などが法益侵害として理解されているが、そこから派生する侵害に着目されることはあまりない。一連の国際的な汚職規制は、そのような派生損害の現実化に伴い進行していると言える。また、そこから生じる損害は大きく分けると経済的な損害、国家的損害と社会的な損失に分けることができる。そして、国際的な汚職の規制は、そのいずれも端緒としているのであるが、規制を定める際にいずれに重点を置くかで、その内容や志向が異なってきうることを明らかにした。 2 そして、それと対応して、従来の汚職規制の国際的動向も、大きな二つの流れに分けられる。国際的な汚職対策の発展過程の分析から以下のような知見が得られた。すなわち、一つは国際的商取引条件の健全化志向である。これは他国の公務自体よりは、当該国で競合する競争相手国の贈賄行為がなくなれば、つまり本国で贈賄罪が規制されれば、それで十分であり、それ以上は、あくまで各国家の問題で、必要以上に干渉すべきではなく、また、商取引に必要以上の影響を及ぼすような新たな規制を及ぼすべきではないという考え方に基づくものである。経済的損害、さらに特に汚職が行われている国家以外の国の経済的損害に着目している流れであるといえる。もう一つは、各国家の健全化自体を志向する流れである。商取引にとどまらず、汚職国家そのものにも国際的な包囲網を形成し、一定の改善を行うこと、つまり、一歩踏み込んで、他国の公務自体を国際的に保護することを志向する流れといえる。 本年度は、国際的な汚職の規制は以上のような要因と傾向を有していることを1、2のように明らかにし、その公刊作業を行った。
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