研究概要 |
本年度は,文献・資料の調査・収集に加え,学会・研究会等での報告を行った他,部分的な成果を公刊した.現在は,さらに研究の最終的なまとめと公刊に向けた作業を行っている. 本年度の成果の中心は,EUレヴェルで形成された社会政策的規範の国内法制化(「ヨーロッパ化」)をめぐる政治過程の検討にある.これについては,国内でも2回の学会・公開研究会報告を行った上,雑誌への公刊を行った.そこであきらかになったのは,EUレヴェルの社会政策規範の国内法制化において政権の戦略が,したがって国内の政党政治のダイナミクスが一定の影響を及ぼしているという点である. また,社会組織をガヴァナンスに組み込んだ場合の正統性問題については,既に昨年度までに明らかにしてきた点であるが,本年度はその問題に対する団体側の対応戦略について検討した.具体的には,ドイツの宗派系福祉団体による,ヴォランティアセンターの設立などの新しい試みを通じた,より開かれた組織・活動形態の模索を検討した.これらは,固定的な社会集団の存在を前提とした既存の組織構造を社会変容に対応させる試みとして評価できるが,他方で,組織の開放・柔軟化というこの試みが,宗派系団体のアイデンティティの揺らぎにつながり,規範的な存立基盤そのものの見直しを余儀なくしている. 主として国内レヴェルのこのような研究成果を,EUレヴェルに関する前年度までの成果と組み合わせ,ヨーロッパ大の規範形成への社会アクターの影響を全体的な形でまとめる作業を現在行っている.
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