本年度は大きく以下の2点について考察をおこなった。第1は、わが国航空事業における競争性の変化についての計量分析とその総括である。企業間結合が進展し、規制緩和が実施されている状況では、独占力の強化が懸念されるところである。推測的変動ならびにパンツアロス統計量などを推定し、わが国航空会社の旅客事業における競争性の計測を行った。1986年以降のわが国国内旅客輸送では、完全競争ではないもののクールノー競争あるいはそれよりやや激しい競争が展開されているようである。また、段階的な規制緩和が進展した1990年代中頃以降、競争促進効果は見られなかったが、改正航空法施行以降では企業間競争が激化する傾向にある。第2に、EU航空会社のケースを対象に、資本提携が含まれる国境を越えた企業間協力関係における、背景と内容、解消・破綻に至る要因、経済効果などについて整理した。資本提携が行われている企業間協力関係には、大きく3つの利点がある。それらは、密度の経済性とよばれる費用低下効果、双方の資源の補完を背景とした企業価値が結合後に結合前の合計以上になるシナジー効果、経営資源の国際移転を通じた効率的な事業体制の確立である。ケーススタディの対象は、エールフランスとKLMオランダ航空、スイス航空とサベナベルギー航空、英国航空とドイツBAの組み合わせである。スイス航空は、EU統合に参加していない危機感から、積極的にEU航空会社に出資し、ハンター戦略を立ち上げ、同社と同社が資本参加するEU航空会社が、20%の市場占有率を獲得することをめざす。しかしながら、2001年に経営破綻する。その背景には、提携相手の選択の誤りという要素がある。一方、国際的な資本提携のリスクと困難さを示唆するものでもある、という点を明らかにした。
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