研究概要 |
本年度も,昨年度に引き続き,インセンティブ設計の観点から効率的な組織設計のあり方およびその公共セクターの設計への応用についての研究を行った.とりわけ,どのような条件のもとで最適な組織構造は階層的になるのか,あるいは,よりフラットな組織構造になるのか,といった問題について分析を行い,組織内における人的資本への投資の重要度が,組織内の異なる活動のコーディネーションの重要度に比して高まるならば,よりフラットな組織を選択すべきであること,また,逆に人的資本の重要度が相対的に低下するならば,より集権的な組織構造が最適になることが明らかにされた.また,そのコーディーネーションの重要度が中程度の場合には,権限関係を階層的に配列したヒエラルヒーが最適な組織構造になることを明らかにした.、この結論から,様々な行政活動間のコーディネーションの利益と行政主体の人的資本の重要度との関係が,最適な公共部門組織を決定する上で重要になることが結論付けられた.また,組織内の情報集積の観点からも,階層的な組織構造はメリットがあることが明らかにされた.ある主体の行動が他の階層における主体の行動を変化させ,それが前者の行動に関する有益な情報を提供するという情報集積効果が期待できるからである.情報の集積は組織主体に適切な行動のインセンティブを与える上でも有効であり,このことを通じて組織の効率性に寄与すると考えられる.これらの研究成果は,Econometric SocietyのAustralian Meeting(Melbourne)およびChinese University of Hong Kongの研究会などで報告された.また,同質的な経済主体であっても彼らを非対称的に扱うことで,彼らの利害一致を断つことに成功し,彼らの共謀を阻止するうえでも有効であることが明らかにされた.これは,公共事業への入札において参加者間の談合を防ぐメカニズムについても重要な示唆を与えている.本研究成果は,Journal of Economic Theoryに掲載された.
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