研究概要 |
本研究の目的は,市場に存在する取引費用等の制約が資産価格にどのような影響を与えるのかを理論的・実証的に分析することである。本研究の成果として,2つ挙げることができる。第1に,日本のオプション市場で課される証拠金が,オプション価格の決定に影響を与えている可能性が高いことである。日本のオプション取引には,売り手側により大きな証拠金が課されるため,オプションの売り手は証拠金のコストも考慮して売り価格を提示する必要がある。このことは,売りと買いの中間価格でオプションのファンダメンタル価格が決定されるのではなく,中間価格より安い価格,つまり売り価格に近い水準でオプションのファンダメンタル価格が決定される可能性を示している。この可能性を分析するために,原資産の価格過程を現実的なGARCH過程に変更した上でオプションのミスプライスを計測したところ,価格過程の変更だけではミスプライスを解消することはできず,証拠金制度のオプション価格形成への影響を示唆するという結果を得た。第2に,長短金利の差であるイールドスプレッドによる景気変動の予測可能性についても分析を行った。その結果,欧米の先行研究と同様に,日本のイールドスプレッドは将来の景気状態に対して有効な説明力を持ち,その説明力は株価収益率やマネーサプライ伸び率等の他の金融変数を上回っていることが明らかになった。しかしながら,欧米の先行研究と比較するとその説明力は大きいとはいえず,とりわけ最近の景気後退局面では,その予測力が大幅に低下している。その可能性として,自己資本比率規制に起因した銀行の国債大量保有による長期金利の低下が考えられる。このことを考察するために,構造変化検定を行ったところ,1996年に構造変化があったとする仮説が支持され,自己資本比率規制に起因した銀行の国債大量保有の時期と一致していることが確認された。
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