研究概要 |
本研究では,産学連携の主要活動といえる、大学からの技術移転を「大学の組織変革」という観点から考察した。これまでの研究でも大学の産学連携に対する方針が,技術移転機関に多大な影響を与えるという指摘がなされてきた。本研究では、対照的な環境にあるテキサス州の2大学(テキサス大学オースティン校、テキサスA&M大学)における産学連携体制の形成の歴史を辿り,各大学がいかに産学連携体制を確立してきたのかを明らかにした。テキサス大学オースティン校は大都市に立地し,大学を取り囲む環境はビジネスに好ましいものであった。片やテキサスA&M大学は小規模都市にあり,大きな企業も支援産業も存在しない,ビジネスには不利な環境にあった。しかし大学の技術移転活動は環境が不利であるはずのA&M大学のほうが活発であった。その背後にはA&M大学の長きにわたる産学連携活動の歴史と,強力なリーダーシップが変革を牽引するというトップダウン型変革であった。このタイプの変革はリーダーに負担がかかるという問題点を抱えていたが,各世代のリーダーが徐々に制度化し産学連携の定着を図ってきた。これに対し,テキサス大学オースティン校は,大学内の一部の組織が産学連携に活発であるだけであり,外圧によって大学は変革を余儀なくされ受動的に環境に対応する形で組織変革を図ってきた。しかし結局はその努力を形骸化するということを繰り返していた。その結果,技術移転組織は機能しない状態になっていた。オースティンは恵まれたビジネス環境ゆえに,研究者たちが大学の干渉を嫌ったものと推測される。以上の結果より,大学側の組織変革の動機,方法,成果は,大学が立地する環境や,地域での大学が担う役割によって,異なることが発見された。ここから得られた仮説を,日本の事例に応用していくことが今後の課題である。
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