研究概要 |
欧米言語話者とは異なって日本語話者の音声聴取はモーラ単位(子音+母音:CV)であることが知られている(Otake et al., 1993)。研究者は日本語話者の発話過程にもモーラが重要な役割を果たしていることをプライミング実験(発話する単語の音情報だけを事前に与える手続き)で明らかにした(kureta et al., in press)。 日本語話者においては、発話する単語の最初の単音素(子音:C)のみのプライミングで促進効果(発語処理が速くなる)は起こらない(kureta et al., in press)。しかしアルファベット文字を使って語頭音素を強く意識させる手続きを導入すると、単音素レベルのプライミングに促進効果が認められた(昨年までの結果)。ところが、同じ手続きで発話単語の語中音素(CVCV)をプライミングしてもプライミング効果はなかった。プライミングが音韻的な効果であるならば、いずれの場合もプライミング効果が現れたはずなので(e.g., Meyer 1990,1991)、今回の日本語話者の音素レベルのプライミング効果は、音韻レベルの処理ではなく、音声・調音レベルの処理に関わっている可能性が示唆された。以上の結果はプライミングされた音素がすべて有声音(e.g., /m/,/n/,/r/)であったため、有声子音固有の結果なのか、あるいは有声・無声を問わず子音全般に一般化出来るものなのかを現在検討している最中である。 また、発語過程における有声・無声子音の影響については、発話単語の語頭が有声・無声子音の弁別素性を説明変数に、音読や命名課題の様々な反応潜時を従属変数にした回帰分析から検討を行った。いずれの場合も統計的に有意な説明変数となり、昨年までの報告と一貫した結果が確認された。さらに、日本語では有声子音のモーラ連続(e.g., /ga//ba//da/)が避けられる傾向にあるが、このような連続の多寡に違いがある単語セットの発話潜時を2つの課題から比較検討した結果、音韻処理から音声処理に至る段階で影響を受けている可能性が示唆された。
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