研究概要 |
本年度の研究では、ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche,1844-1900)の主要概念である「永遠回帰」等の考え方が、彼の実際の教育者としての活動のなかで、どのようにして形成されていったのかを解明しようと試みた。 詳しく述べると、まず永遠回帰をニーチェがどのようにして着想し、構想したのかについて整理した。次に、ニーチェ以降の思想家がそれをどのように解釈して受容していったのかを整理し、続けて、本稿の第一のテーマである永遠回帰を教育学としての人間形成論から検討し、全体をまとめるという形態をとった。 この考察で、ニーチェの永遠回帰の教説に込められている背景は、教育の目的や意味の欠如ということを指摘した。目的や目標が教育において排除されたならば、現実としては学ぼうとするモチベーションの低下につながるであろう。だが重要なのは、短期的なものではなく、長期的な自己形成観である。絶えず変化する状況における自己形成、終わりなき日常における自己形成、そのような形成が要請されている現代の状況において、瞬間や決断が持つ重みはかなり大きい。ニーチェにとって、永遠回帰は出発点でもなければ到達点でもなく、永遠回帰そのものなのであり、それは究極的なアルケーを探ろうとするものでもない。このことをわれわれは理解しつつ、運命として愛していかなければならない、というのが結論である。 さらに並行して、ドイツの近代教育学での重要な概念であるBildung(人間形成)について、先駆的な思索をしたヘルダーについても考察を行っている。これについては、まだまとめ切れていない部分があるが、平成18年の学会にて発表予定である。
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