研究概要 |
本研究は,今の子どもたちの表面的な「からだ」にみられる変化だけに限らず,内面的な「こころ」の変容に注目し,幼児期や児童期の運動活動や戸外遊びなどの実態を調査することによって,子どものからだや心に起こる問題と関連付けながら,体育教育の課題を探っていくための基礎的資料を得ることを目的とした.そこで子どもの実態調査を行い,以下のような結果を得ることができた. 1.幼児期の生活スタイルと運動遊び・おけいこごととの関連 (1)降園後の「運動遊び」の有無や「スポーツ系の習いごと」の有無が,「テレビ・ビデオ視聴時間」に影響を及ぼしていることが示唆された.睡眠や食事に関わっては,明らかな差が認められなかったことから,今回の調査対象となった幼児の生活リズムにとって,「テレビ・ビデオ」視聴時間が大きな比重を持っていることが推察される. (2)「運動遊びをして遊んだ子ども」たちの保護者は,「それを全くしなかった子ども」たちの保護者より,子どもたちがより「戸外でよく遊び」「活発に身体を動かして遊び」「友だちと仲良く遊んでいる」と感じ,そしてその遊びに子どもたちが「満足している」ようだと感じている傾向にあった. (3)今回の調査では,降園後の「運動遊び」の有無や「スポーツ系の習いごと」の有無と運動能力との関係は認められなかった. 2.児童・生徒の社会的スキル,心の健康,運動の有能感,体育授業に対する態度との関連 (1)向社会的行動においては,男子より女子の得点が高い傾向にあり,学校階梯が上がるにつれて社会的スキルも上昇する傾向にあり,望ましい態度を身につけていっていると言えそうである.また,自己効力感と向社会的行動にも高い相関が認められ,小学校段階において子どもたちが社会的スキルを獲得しておくことは,彼らのより高い自己効力感の獲得につながるものと推察される. (2)体育授業に対する態度の「楽しむ」「まもる」「まなぶ」因子で,15年前と比較して得点が高くなっていた.しかし,運動の有能感の「身体的有能さの認知」因子では,10年前と比較して小学生では上昇しているものの,中学・高校段階において明らかな低下が認められた. (3)各調査因子を上・中・下位群に分け,それぞれの調査因子の平均値を比較したところ,「上位群」は各調査全体にわたって高得点であり,逆に「下位群」はいずれの調査においても低得点であるという実態が認められた.
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