研究概要 |
本研究では、特に日本の学生を対象とし、批判的思考の内発的エネルギーである「批判的思考態度」に焦点を当て、それを促進する心理的・教育的要因を、量的および質的研究法を融合した「ミックスド・メソッド」によって探った。 量的研究では、Facioneら(1992)の「批判的思考態度テスト」と、Leung & Kim(1997)の「自己観診断テスト」を用い、日本と米国のデータを用いた多母集団同時分析を行った。その結果、両群において、批判的思考モデルの4因子について配置不変が成り立つという結果が得られた。 次に、筆者が米国で行った「文化的自己観」と「批判的思考態度」の因果関係に関する研究(Kakai,2001)に対応する調査を、日本の学生を対象に行った。そして、前述の4因子のうち2因子について、「相互独立的自己観」が、統計的に有意な正の影響を持つという結果が得られた。一方「相互依存的自己観」は、批判的思考態度の1つの因子に対して統計的に有意な負の影響を持つという結果が得られた。このことで、アジアにおいて特徴的とされる相互依存的自己観が、批判的思考態度の発達を阻害することはあっても促進することはないことが示唆された。 質的研究では、日本の高等教育における諸活動が、批判的思考態度をどのように促進するのかという点に焦点を当て、17名の学生に面接調査を行った。その結果、(1)複眼的視点を重視した講義(多文化理解や複雑な社会問題を扱う講義など)、(2)教師や学生も含めた多様な他者が意見交換を行う演習、(3)多様な個性の統率が求められる課外活動、などが、批判的思考態度を促進するという仮説が得られた。これらの活動では、「多声性」に対する柔軟で公平な態度を働かせることが求められており、その点が批判的思考態度を促進していると考えられる。今後は、本年度の研究で得られた仮説について、さらに詳細な分析を進めていく予定である。
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