研究概要 |
本年度は,米国の地理カリキュラム及び地理教科書の分析を通して,わが国の地理授業開発の課題を解明しようとした。その結果,以下の成果が得られた。 1.米国テキサス州の教育動向に注目し,同州のカリキュラムと教科書『世界文化と地理』に内在する地理教育論を解明した。分析の結果,(1)認識対象を社会の事象・問題に求めた総合的な「社会研究」になっていること,(2)地理学独自の視点・方法を限定的に位置づけ,人文・社会諸科学のそれを広く活用していること,(3)世界の様々な「地域」の社会研究を保障していることを指摘した。また学習指導要領の地理教育と比較すると,市民性の育成にコミットできる可能性が大きいことを明らかにした。本成果は,『中研紀要 教科書フォーラム』(中央教育研究所)に発表した。 2.1の成果を受けて,日本の「地誌学習」に内在する原理的問題を指摘した。学習指導要領と教科書を分析した結果,(1)認識対象が地域の地理的事象に限定されていること,(2)対象の捉え方として,地理学固有の視点・方法が過剰なまでに大きく設定されていること,(3)地理学習が目的化してしまい,国家・社会の本質把握や批判的思考力の育成にコミットしていないことを明らかにした。本成果は,『東書E-net』『教室の窓』(東京書籍)に発表した。 3.2の成果を受けて,日本の「地誌学習』を総合的な「社会研究」に変革する授業モデルを開発した。具体的には,(1)アフリカ地域の紛争現象を取り上げ,(2)同現象が発生している理由を,エスニック集団の対立モデル(歴史・文化的視点),権力者の対立モデル(政治・経済的視点),被支配者層の対立モデル(社会・心理的視点)をもちいて分析させる,(3)最終的には,紛争国家にみられる社会構造を解明させる授業を開発した。本成果は,『社会認識教育の構造改革』(明治図書)に発表した。
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