研究概要 |
本研究を進めるにあたって,民主主義社会を生きる市民に必要な価値観形成や判断力の育成を意図したと解される社会科教育・公民教育関係の理論書,プロジェクトの報告書,ならびに,それに基づいて作成された教科書や教師用指導書についての収集を継続的に行ってきた。これらの収集した資料や関連文献については、翻訳を進め,個々のプロジェクトがどのような目標のもとにカリキュラムや単元を構成しているか,またそこにはどのような社会認識形成の論理,判断力育成の論理が組み込まれているかを、各単元レベルでの教授・学習活動の具体的な内容・方法の分析を通して,論理実証的に解明してきた。 また,本年度2月に渡米し,1960年代後半から80年代にかけて開発・出版された理論書やプロジェクト報告書,教科書や教師用指導書のうち,未だわが国に紹介されていないもの,一部紹介はされているが国内に資料が体系的に存在しないものに重点をおき収集活動を行なった。その結果,例えば,『Law in U.S.History』や『Subject To Citizen』などのプロジェクト教材を収集することができた。また渡米先では,ワシントン大学のWalter Parker氏,Robert Howard氏,シアトル大学のMargaret Fisher氏から米国やワシントン州での市民性教育や法関連教育の現状と課題について詳細な情報を得ることができた。 研究成果の公表について本年度は,法体系それ自体の教授を目的とするのではなく,法化社会を生きる市民に必要な社会認識の形成を図ろうとするプロジェクトを中心に分析を行い,6月の日本カリキュラム学会において「法社会を生きる市民育成のための社会科カリキュラム編成-『都市社会アメリカにおける正義』の場合-」の題目で発表した。1970年代に当時イリノイ大学シカゴ校教授であったRobert Ratclifeらによって開発された法関連教育教材を取り上げ,その内容編成の論理や学習の意義について検討した。なお本報告をもとに加筆・修正した論文が,日本カリキュラム学会の学会誌『カリキュラム研究』第15号に「法を基盤とする社会科カリキュラム編成の研究-『都市社会アメリカにおける正義の場合』-」の題目で掲載される予定(現在印刷中)である。
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