研究概要 |
ストークス問題では,滑り境界条件を課す場合があり,解は剛体回転の自由度と圧力の不定性自由度を含む.この自由度を取り除くために線形拘束を用いるが,これは関数空間の制約として取り扱う.全節点自由度の空間からの制限を実現する正射影によりアルゴリズムを構成することができる.有限要素剛性行列は全節点に自由度を持つ有限要素基底を用いて生成することができ,手続きが簡単である.この行列自身の正則性は考える必要がなく,線形拘束をみたす制約付き空間の上での正則性,すなわち正射影を行列の両辺に作用させたものの正則性を議論することで十分であり,これは有限要素解の一意性から自然に導かれる.得られた連立一次方程式は正射影付きクリロフ部分空間法(特に共役勾配法)を用いて解くことができる.行列・ベクトル積とベクトル加減算に正射影を付加するプログラム実装を行うことで,数値誤差の蓄積を防ぎ,制約付き空間のなかでクリロフ部分空間法を実行することができる. 部分構造反復法では部分領域内部の自由度を消去し,内部境界上の自由度の方程式に変換する.このためには部分領域での係数行列の成分を知る必要があるが,正射影を伴う有限要素方程式では,成分の値を陽に得ることは難しい.正射影作用素を領域分割に対応して分割することで,有限要素方程式に対する汎用的な部分構造反復法を構成した.各部分領域で,領域毎に線形拘束を課すことで,行列成分を陽に必要とする問題を回避できるが,過剰な制約となってしまうため,全体領域で拘束条件の自由度に対応する問題を付加する.これにより内部境界上での問題の正則性が保たれることがわかった. この手法によるストークス方程式の部分構造反復法に,弾性体問題に対して優れた収束特性をもつバランシング前処理(BDD法)を導入した.BDD法はPavarin-Widlund[2002]によって圧力に不連続要素を用いるQ2/QO要素の有限要素近似に拡張されているが,圧力に連続要素を用いるP1/P1安定化近似に対してアルゴリズムを構築した.
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