研究概要 |
平成17年度は黒川友紀氏(米子工業高等専門学校)との共同研究により,球対称な初期値をもった波動方程式の解に対するStrichartz型評価式を,時間大域的な場合と局所的な場合に証明した.時間と空間両方の変数に関する解の2乗可積分性評価式と,球対称な関数に対するHardy-Littlewood-Sobolev型不等式を組み合わせる方法に証明は基づく.このためにVilela(Illiois Journal of Mathematics,45巻(2001))の議論を参考にした.時間大域的な評価を示すことにより,Sterbenzの先の結果に別証明を与えることができた.また時間局所的な評価を示すことにより,Soggeの先の結果を最終的な形にまで拡張することができた. この成果を得るために,球対称な関数に対するHardy-Littlewood-Sobolev型不等式を証明した.証明の短い方針がVilelaの上述の論文で与えられていたが,我々はそれには頼らないで証明した.空間3次元以上の場合には非常に直接的な方針で証明が出来ることがわかった.我々の方針は,球対称な関数同士のたたき込みから角度変数を除去して表現して,精密な各点評価の後に1変数のHardy-Littlewoodの不等式を応用するものである.空間2次元の場合はこの方法だけでは限界があるようであった.それは球対称な関数同士のたたみ込みから角度変数を除去した表現式に,空間3次元以上では現れない特異性が出現してしまうからである.この特異性が十分な各点評価式を得ることを阻害する.そこで双対性の議論を援用して計算することにした.双対性を通して計算してみると,不等式の証明の要点は特異関数を伴うHardy-Littlewood型極大関数のp乗可積分関数の空間における有界性に帰着できることがわかった.このような極大関数の有界性についてはLindbladとSoggeが興味深い考察を先に行っていたので,この部分に関しては彼らの補題を援用して困難を克服することができた. 我々の議論には時間と空間両方の変数に関する解の2乗可積分性評価式も必要になった.特に時間局所的な2乗可積分性評価式の証明には,SmithとSoggeによる波動方程式の解の局所エネルギーの可積分性評価式が役立った.
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