極微な超伝導トンネル接合からなる素子を用い、そこでの単一クーパー対トンネル現象を制御することを基本原理とした電流標準の実現が本研究の目的である。本年度は、新たな試料作製技術を開発し、また、極微なトンネル接合系で重要となる電磁場環境の問題を吟味した。以下主に、開発した作製技術について述べる。 極微なトンネル接合の材料には通常アルミを用いるが、目的のために好ましくない準粒子の励起を抑える上では、超伝導ギャップが約8倍大きいニオブの方が有利であると考えられる。しかし、ニオブ系極微(サブミクロン・サイズ)構造を標準的な電子線リソグラフで作製すると、良質のものが得られない(超伝導ギャップや転移温度がバルクの値より小さくなる)。そこで集束イオンビーム・エッチングと陽極酸化を組み合わせた試料作製プロセスを開発した。このプロセスによりニオブ系単電子トランジスタ(極微トンネル接合回路の基本単位)を作製し、低温での電気伝導測定から超伝導ギャップと転移温度がバルクの値と比べて遜色がないことを確認した。さらに、単電子トランジスタとしての動作を吟味するために、磁場を印加することにより試料を常伝導状態へと転移させた上で、電流電圧特性とそのゲート電圧依存性を極低温(0.04K)で測定した。ゼロ電圧近傍に現れるギャップ電圧の詳細な解析から、この試料の単電子帯電エネルギーを見積もると、温度換算で1.1Kとなった。この値は十分大きく、また、設計サイズとも矛盾しない。以上のことから、開発したプロセスを用いると高品質のニオブ系極微トンネル接合を作製できる。
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