Sr2RuO4は、二次元層状ペロブスカイト型超伝導体(Tc=1.5K)であり、酸化物では初めての三重項対形成機構による超伝導体であると指摘されている。三重項対形成(p波超伝導)では、強磁性的スピン揺らぎがクーパー対を形成する引き金になると期待されるが、このSr2RuO4では、顕著な強磁性揺らぎは観測されず、代わって、q=(2π/3 2π/3 0)に反強磁性的揺らぎが観測される。一方、Sr2RuO4が、スピン三重項超伝導状態を持つことをさらに検証するには、電子対のスピン磁化率を測定する必要がある。スピン一重項超伝導では、電子対がS=0の状態を作るため、Tc以下でどの方向に磁場をかけてもスピン磁化率はゼロに向かって減少する。スピン三重項の磁化率では、平行スピン対のある面に平行な磁場をかけた場合は、Tc以下でも磁化率が変化せず一定の値を保ち、磁場を垂直にかけた場合は、磁化率はゼロに向かって減少する。そのため、Sr2RuO4のスピン磁化率を測定することで、超伝導電子対のスピン部分がどの方向を向くかを決定することができると考えられる。これらの研究目的を踏まえて、我々は、昨年度に続き、中性子散乱実験を行い、(1)q=(2π/3 2π/3 0)での反強磁性的揺らぎの詳細な測定、(2)q=0近傍でのスピン磁化率の異方性の観測、を試みた。超伝導転移温度以上、以下の温度にて、中性子実験を行ったが、残念ながら、反強磁性揺らぎに関しては、その温度依存性に変化が見られず、また、q=0近傍でのスピン磁化率に関しては、有益なシグナルを観測することができなかった。
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