平成16年度は、平成15年度に整備を進めた光電子分光装置を用いることにより、ウラン化合物に対する光電子分光実験をさらに進展させた。まず、肌23SUにおいて軟X線放射光を用いた角度分解光電子分光を行うための環境の整備を行った。いくつかのウラン化合物に対してこの手法を適用することにより、これら化合物のバルク敏感なバンド構造およびフェルミ面を観測することに成功した。特に、常磁性体UFeGa_5と反強磁性体USb2に対する実験を行い、バルクUsf電子状態が強く関与するフェルミ面の観測に成功した。これらの結果を、バンド計算の結果と比較したところ良い一致が見いだされ、これらの化合物ではUsf電子が遍歴的であることが示された。これらの結果から、ウラン化合物の電子状態解明に対して、軟X線角度分解光電子分光が非常に有効な実験手法であることを示すことができた。また、超伝導と磁性の共存を示すUPd_2Al_3とUNi_2Al_3に対する実験も行った。その結果、両者において、超伝導を担っていると考えられるU5f電子が明瞭なエネルギー分散を持つことが明らかになった。この結果は、UPd_2Al_3における超伝導の発現機構に対しても重要な情報を与えることができると考えられる。また本年度は、ウラン化合物に対する内殻光電子分光に対する解釈を進めた。特に、エネルギー分解能の向上により、U5局在系化合物であるUPd_3の内殻スペクトルに、いままでは観測されなかった構造が見出された。これにより、内殻スペクトルはU5f電子の遍歴性・局在性による系統性を示すことが明らかとなった。今後、多くのウラン化合物にこの系統性から導き出された解釈を適用することにより、内殻光電子スペクトルから、U 5電子に関する情報を得ることができると期待される。
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