研究概要 |
本研究の目的は,琉球列島及びグレートバリアリーフに広がるサンゴ礁とその周辺堆積物が,第四紀中期のどのタイミングでどのような海洋表層環境(特に水温)の変動が原因でサンゴ礁の成立・拡大が促されたのか,定量的な解析(酸素・炭素同位体比やアルケノン古水温計)によって検証することである。そこで,これまでの研究で系統的なデータ(微化石年代・酸素同位体比層序・海水準変動)が揃っている南琉球弧に位置する伊良部島およびその島棚の琉球層群のコア試料CR-13・CR-14と同海域の現世海底表層堆積物を題材にして(1)アルケノン古水温計の可能性の検討,(2)高精度マイクロミルシステムによる浮遊性有孔虫殻・低Mg方解石の底生有孔虫殻の酸素・炭素同位体比・Mg/Caを用いた環境記録解読法の構築,(3)以上の手法のコア試料への適用を試みてきた。その中で平成17年度は,高精度マイクロミルシステムによる環境解読法の土台が完成し,本システムの特許出願をしたことが大きな成果としてあげられる。本マイクロミルシステムは,マイクロスケール単位での切削が可能で有孔虫殻の切削が十分に行えることから,浅海性炭酸塩堆積物において極めて有効な手法である。この手法を第四系浅海性炭酸塩堆積物(琉球層群)中の浮遊性・底生有孔虫殻に適用した結果,続成作用によって有孔虫が個体として摘出できない固結した炭酸塩岩において,浮遊性有孔虫の殻形成時の初生的な酸素・炭素同位体比の抽出に成功した。その結果,第四紀中期,特にMid-Pleistocene Climate Transitionにおける海洋表層水温の上昇がトリガーとなり北西太平洋のサンゴ礁が拡大した可能性があることが明らかとなった。
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