研究概要 |
サリチルアルドキシム部位を直鎖状に連結した配位子の合成とその錯形成によるらせん型構造の形成について検討を行った。直鎖構造の基本骨格としてイミンを用いた場合にはC=N結合生成の高い可逆性のため不均化して合成には至らなかった。一方、本研究で開発した、salenのイミン部をO-アルキルオキシムに置き換えた新規N202四座キレート配位子salamoは、そのC=N結合の安定性がsalenよりも格段に向上していることがわかった。またこのsalamo配位子と銅(II),亜鉛(II),ニッケル(II)の錯形成により安定な単核および三核錯体が得られた。このsalamo部を2個あるいは3個連結した配位子は、アルデヒドと1,2-ビスアミノオキシエタンを段階的に縮合していくことで合成できた。次に、このオリゴオキシム配位子と金属との錯形成によるらせん型金属一次元鎖の形成について検討を行った。ビス(salamo)配位子と酢酸亜鉛(II)の協同的な錯形成により得られる亜鉛(II)三核錯体は、適切な金属ゲストイオン存在下で金属交換反応を起こし、らせん型ヘテロ三核錯体へと変換できた。この金属ゲストイオンとしては、アルカリ金属<アルカリ土類<希土類の順に得られるヘテロ錯体の安定度が高くなり、アルカリ土類の中ではカルシウムに高い選択性を示した。このときのCa/Mg選択性は従来知られているカルシウム捕捉剤BAPTAに匹敵する。また同様の手法で得られるCu2Gd系三核錯体のCu-Gd間には強磁性的相互作用があることがわかり、らせん構造を通したスピンの伝達が起きていることが明らかとなった。より鎖の長いトリス(salamo)-Zn錯体の場合はBa共存下でらせん型構造となった。このように本研究における直鎖オリゴsalamo配位子が、らせん型の一次元金属配列を有する分子導線の基本骨格として有用であることを明らかとした。
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