研究概要 |
ゼオライトに類似する多孔質の構造をもった新しい遷移金属酸化物を合成し、特異な磁性や導電性の発現をめざして研究を行った。今年度は特に、KSbO3型と呼ばれる特異なネットワーク構造を持つ物質群に着目した。この構造は、遷移金属原子を6つの酸素原子が取り囲んだ八面体2つが稜を共有してできたダイマーを基本としている。それぞれのダイマーはさらに別のダイマーと頂点酸素を共有して3次元構造を構築しているが、隣り合うダイマー同士の向きが直交していることが大きな特徴である。また、このような結合は大きな隙間を生じ、その隙間の中に第三の元素(アルカリ土類や希土類)が挿入されている。これらの元素のイオン半径は隙間の空間と比べて非常に小さいので、これらの結晶は多孔性の骨格構造の隙間にゲストイオンが取り込まれているような構造と見なすことができ、ゼオライト的な構造といえる。一連の研究により得られた物質は、Ba2Ir3O9,Sr0.4ReO3,Pb6Re6O19,(BaxSr1-x)2Ru3O9の4つであるが、特に最後の物質は新規物質である。いずれも物性に関しては今までほとんど調べられていない。5d遷移金属であるIr,Reを含む最初の3物質の磁性はいずれも温度に依存しないパウリ常磁性であることがわかった。磁化率の値そのものはBa2Ir3O9と比べてSr0.4ReO3とPb6Re6O19の方がはるかに小さいことがわかった。電気抵抗率の温度依存性はBa2Ir3O9では低温で温度の2乗に比例する挙動、Sr0.4ReO3では温度にほぼ比例する挙動であることがわかった。これらの結果から、Ir化合物はRe化合物に比べて強相関金属としての特徴がより顕著に現れていることが示唆される。一方、4d遷移金属酸化物である(BaxSr1-x)2Ru3O9の磁化率は、相転移を起こさずに低温で滑らかに減少していくという異常な挙動を示す。その温度依存性を解析した結果、スピンが有限ギャップが空いた基底状態に落ち込んでいるという解釈が可能であることがわかった。このようなスピンギャップ的な挙動の原因として、KSbO3型の特殊な直交ダイマー構造に着目している。
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