研究概要 |
近年、分子磁性の研究は、転移温度の上昇・次元性の拡張にとどまらず、光誘起スピンクロスオーバーや強磁性半導体など磁気-光-導電性の複合的発現へと新しい展開を見せている。本研究では、共役高分子に高密度に非極在型ラジカルが置換した高ドープ型ポリマーとして、有機高スピンポリラジカルを捉え、その電荷輸送特性を明らかにすることを目的としている。ラジカル置換ポリ(フェニレンビニレン)(PPV)、ラジカルが置換していないPPV、磁気的相互作用の無いラジカル置換ポリスチレンの3種のポリマーを合成し、ESR・近赤外吸収により電子状態を、SQUID-電気伝導度測定により磁気・半導体特性を明らかにする。今年度の到達度・成果は以下である。(1)低分子ラジカルの酸化還元特性、分散膜の電荷輸送特性:トリス(4-ブロモフェニル)アミニウム ヘキサクロロアンチモネート、Yangバイラジカル、ジアニシルニトロキシドラジカルを低分子モデルラジカルとして合成し、それらラジカルを高濃度に分散したポリカーボネート薄膜の電流-電圧特性、過渡光電流測定により、不活性マトリックス中でのラジカル自身の電荷輸送能を定量した。ジアニシルニトロキシドラジカルにおいて最も高い輸送特性が得られ、有機ラジカル自身の酸化還元による電荷輸送の可能性を示した。(2)ポリラジカルの合成:ポリ(2-アリールアミニウムラジカル置換-5-アルコキシ-1,4-フェニレンビニレン)、ポリ(4-アリールアミニウムラジカル置換スチレン)を新しく合成しその構造・電子状態を明らかにした。一方、局在型ラジカルであるニトロキシドラジカルを置換したポリスチレンを新しく合成した。以上、低分子ラジカルを用い予備的知見を得た一方、申請課題のキー化合物となるポリラジカルを新しく合成した。
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