研究概要 |
本研究では,近年急速に発展しているマイクロ熱分析手法を用いて,セラミックス材料の新たな評価法を開発することを目的とした.多結晶材料において,粒界は機能性発現機構および材料特性に影響を与えると考えられるため,試料組成や作製条件とともにその制御は非常に重要なファクターである.研究対象として酸化物イオン伝導性材料であるイットリア安定化ジルコニア(Y-PZT)に着目した.マイクロ熱分析装置によるY-PZT焼結体のカット試料の表面熱伝導性像の観察の結果,最適なプローブ温度および走査速度を選択することによって,結晶部分と粒界の熱伝導度の違いを反映したコントラスト像としてサブミクロンスケールで焼結体内の粒界の様子を観察することが可能であることが分かった.通常,材料の微細組織観察に用いられる電子顕微鏡に対して,マイクロ熱分析は常温・常圧下で行うことができまた試料の前処理がより容易である点でアドバンテージがあることも分かった.焼結助剤としてアルミナや酸化ビスマスを添加したY-PZTにおいては,ジルコニアの結晶粒子サイズや粒界のネットワークの様子が大きく影響を受けることもマイクロ熱分析によって観測された.また,水の存在下において140℃という比較的低温での熱処理によって,Y-PZT特有の相変態を伴う低温劣化によって粒界の様子が著しく変化する現象も観察された.これらのことは,焼結時の雰囲気と助剤の選択によってY-PZT粒界のコントロールが可能であることを示唆している.
|