研究概要 |
本年度は,正孔ドープ系高温超伝導体薄膜La_<2-x>Sr_xCuO_4(LSCO)に対するマイクロ波複素伝導度の広帯域周波数掃引測定を行い,超伝導秩序変数の揺らぎを広い組成範囲で詳細に解析し,超伝導揺らぎの臨界的性質に強い組成依存性があることを発見した.具体的には,まず,前年度に問題となった測定データの定量性を向上させるため,超伝導揺らぎの性質が既知の従来超伝導体NbN薄膜を測定すると共に,広帯域周波数掃引法における測定データの較正方法を検討し直した.次に,高温超伝導体の不足ドープ組成から過剰ドープ組成まで広い組成範囲(x=0.07-0.20)で,超伝導揺らぎ伝導度が動的スケーリング則(σ(ω)=σ_0S(ω/ω_0))に従うかどうかを検証し,超伝導秩序変数の臨界的振舞いの観測と臨界指数の決定に成功した.NbNでは予想通り平均場理論と一致する値が得られたのに対し,LSCOでは平均場理論とは大きく異なり,かつ組成に大きく依存する振舞いが得られた.特に,秩序変数の次元性は,最適ドープ組成から少し過剰ドープ側の組成でのみ3次元で,他では2次元となることが見出され,3次元から2次元へのクロスオーバーは薄膜の膜厚が相関長より短くなることには起因せず,高温超伝導体の相図に本質的であることが分かった.この強い組成依存性は,量子臨界的挙動と密接に関係している可能性がある.また,不足ドープ組成では,2次元XYモデルの位相揺らぎが超伝導揺らぎを支配するが,この揺らぎは擬ギャップ温度よりもはるかに低温で消えることも分かり,擬ギャップ相は超伝導の前駆現象だけでは説明できないことも分かった.
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