研究概要 |
本研究では、広島大学放射光科学研究センターの軟X線放射光ビームラインに、磁気円偏光二色性測定システム(XMCDシステム)を整備して、多元系磁性体および磁性多層膜の元素選択な磁気測定を行った。 1.軟X線ビームラインにおけるXMCDシステムの整備 放射光の円偏光成分を選択的にビームラインに導入して、分光された円偏光軟X線を波長走査して利用できるようにビームライン整備を行った。試料冷却・試料磁化・試料電流測定が可能な超高真空装置を作製して、ビームラインに接続することで、XMCDシステムを整備した。NiおよびCoのL吸収端において、標準試料による円偏光度評価を実施して、定量的に意味のあるXMCD測定を実施可能にした。 2.多元系磁性体の軟X線吸収測定 パイロクロア型モリブテン酸化物のSm_2Mo_2O_7とTb_2Mo_2O_7およびそれらの混晶試料について、軟X線吸収測定と光電子分光測定を行い、磁性・電気伝導と電子状態の関連を調べた。希土類サイトの置換により、価電子帯および伝導帯の電子状態とモリブテンイオン価数が変更をうけて、磁性と電気伝導が変化することを明らかにした。 3.磁性多層膜の元素選択な磁気測定 Cu(100)単結晶上に、Cr, Fe, Ni等の遷移金属を単原子単位の蒸着量制御で製膜して、表面化学分析と表面構造分析による製膜評価が可能な環境を整備した。数原子層厚の磁性多層膜Fe/Ni/Cu(100)およびCr/Fe/Cu(100)を作製して、XMCD測定を実施した。Fe/Ni界面における界面電子状態が、磁気異方性に影響を与えることを示唆する結果や、Cr/Fe系のFeサイトの強磁性秩序がCr蒸着量に敏感であり、Fe層の結晶構造変化と関連する可能性を示す結果を得ることができた。
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