研究概要 |
本研究ではシリサイド半導体の一つであるβ-FeSi_2のスピントロニクス,オプトエレクトロニクスへの応用という新たな研究展開を目指した研究を行った.具体的にはβ-FeSi_2での発光強度の増大と磁化誘起を試み,光・磁気デバイス,受発光素子の開発を目指した物性研究を行った。β-FeSi_2ではSiのsp軌道とFeのd軌道が強く混成した結果、伝導体、価電子帯ともspd混成軌道が支配的なバンド構造を持つ。よって、光学特性の改善や磁性を発現するためには、spd混成軌道に変調を与える必要がある。そこで本研究では軌道変調が起こることを期待して、β-FeSi_2に酸素をドープしたβ-Fe(Si_<1-x>O_x)_2試料を作製し、その光学特性の評価を行った。その結果、以下のことを明らかにした。 ・イオンビーム合成法で作製したβ-FeSi_2に酸素をドープするため、酸素雰囲気中で熱処理を行った。その結果、表面でシリコン酸化膜の形成が駆動力となり、基板からβ-FeSi_2内部の増速拡散が誘起されることが明らかになった。 ・作製したβ-Fe(Si_<1-x>O_x)_2のフォトルミネッセンス測定を行ったところ、発光強度が1桁以上、著しく増大されることが明らかとなった。また、非輻射遷移過程への活性がエネルギーが大きくなることを見いだした。 上記のように、β-FeSi_2への酸素ドープはSi原子の増速拡散を引き起こし、非発光センターであるβ中のSi原子空孔の数を減少させることが明らかになった。 よって、酸素ドープはβ-FeSi_2の発光強度を増大させる有効な手段であることがはじめて明らかになった。
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