研究概要 |
マイクロマシンの実用化は,機械としての信頼性を確保した上ではじめて成り立つものである.とくに,近年では,Si単結晶ウエハなどを用いたバルクマシーニングに加え,ポリシリコン薄膜などの薄膜も構造材料として用いられるようになってきているが,これらの機械的特性あるいは疲労破壊特性については,標準的試験法すら確立されていない.マイクロエレメントの強度特性評価を行う場合に最も困難な点は,試験片のチャッキングである.圧子により荷重を負荷する曲げ試験は,試験片のチャッキングの問題を回避することができるため従来から多く適用されているが,応力勾配が存在すること,試験片と圧子の接触部で破壊することなどの問題がある.一方,微小な荷重を精度よく負荷できる試験機を用いた引張試験を用いて,静電チャックにより試験片を保持し,機械的特性評価も進められつつあるが,静電チャックでは,チャック部分のすべりが生じるため,疲労破壊特性評価には適さない.そこで,本研究では,ポリシリコン薄膜を対象として,接着剤によりチャッキングを行い,繰返し荷重下での疲労試験が可能なマイクロエレメント特性評価試験片を開発し,これを用いた引張試験によりポリシリコン薄膜の機械的特性評価を行った.さらに,乾燥空気中,実験室空気中,水中において疲労試験を実施し,ポリシリコン薄膜は,引張変動荷重下で水の影響を受けて破壊することを明らかにした.また,結晶粒径や結晶方位分布が,ポリシリコン薄膜のヤング率に及ぼす影響を,ボロノイ分割により作成した有限要素モデルを用いて検討した.それぞれの結晶粒に対してランダムに結晶方位を与えた場合は,解析領域内に含まれる粒子数が増加するにつれ,異方性による影響を受けにくくなり,平面ひずみモデルにおいてはヤング率は170GPaあたりに収束するのに対して,3次元モデルでは,ヤング率は160GPa程度になることを示した.
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