研究概要 |
薄膜センサの付着力を増強させるために,熱電対の材料をニッケルとニクロムに変更し,ヘリコンスパッタ装置で薄膜センサを成膜した.ホットジャンクションの膜厚は1μm以下とし,その上に酸化ハフニウム層でセンサを絶縁した.最表面には切削の厳しい環境から工具を保護する目的で,窒化チタンをPVD成膜した.切りくずと工具の接触界面の温度分布を切削中に直接的に測定できるようにするため,フォトリソグラフィの解像度を向上させ1〜3個のセンサ郡とし,センサの幅も50から150μmに変化させた.切削温度測定実験の結果,各センサの熱起電力は切削開始直後の切削力が立ち上がる変動に応じて敏感に応答すること,切削停止後の冷却過程も測定できることが分かった.センサ数を3本にした工具では,切削開始1s以内に切削力は飽和するが工具-切りくず接触域にあるセンサの熱起電力も飽和し準定常状態になるが,刃先より後方では熱伝導により直ぐには飽和しない様子も確認できた.すなわち開発したセンサ内蔵型工具は,切削力の変動に応じた温度変化を捉えるだけの応答感度があることが分かった.センサを微細化して数を増やせば解像度が増すため,工具-切りくず接触域を含めた工具表面の温度分布の形状が認識できるが,実用的にはセンサ数3個で十分に切削温度分布を把握できることを確認した.薄膜センサ温度校正実験より,Seebeck係数は薄膜センサの電気抵抗に依存することが分かった.普通炭素鋼S45Cで切削速度1から2m/s,アルミニウム合金A6061-T6で切削速度5から18m/sの高速切削における温度測定実験を行った.温度測定実験結果と数値解析結果の比較により,種々の切削条件下でも妥当な温度分布を直接測定できることが分かった.最後に,薄膜温度センサの精度を向上には,成膜する母材の平坦度と緻密度の確保と精度良い温度校正方法の確立が今後の課題となった.
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