研究概要 |
接触線の挙動は界面挙動に大きな影響を与えるが,現状での解析モデルは経験的なモデルを用いる場合がほとんどであり,その力学的由来については明らかにされていない.本研究では接触線近傍の流れ場について分子動力学(MD)を用いた解析および粒子画像流速測定法(PIV)を用いた実験により,応力分布等のメカニズムを明確にすることを目的として行った. 分子動力学での解析は2つの互いに混ざり合わない流体を2枚の平行平板間に挿入した体系で行った。そして平行平板を逆方向に一定速度で移動させることによりCouette流れ状の境界条件を作り出し、その際の接触線の挙動について調べた。壁面と流体との間にはすべりが生じており,そのすべりは接触線近傍ではより大きくなっている.この際,壁面と流体の間には速度に比例した壁面方向の接線応力が発生しており,接触線近傍では流体-壁面間の速度差の増大に伴ってこの応力も大きくなっていた.このことを利用して接触線での界面張力と壁面-流体間応力の壁面方向成分の釣り合いから接触角を表すモデルを作成し,分子動力学計算の結果と比較したところ,よく一致することが明らかになった.また,表面に凹凸のある場合には接触線が極めてstickしやすくなるのが見出された. PIVによる実験では界面に垂直に挿入した平板を鉛直方向に動かす体系にて2μmの空間解像度で接触線のごく近傍まで速度分布を測定した.流体には水を,壁面にはガラス,アクリルなどを供試材として用いた.その結果,ガラスのように濡れ性がよく,固体面上に濡れ膜を生成する場合には流体の表面は壁面と同じ方向に移動する現象が見られ,特に壁面が上昇する場合には,壁面に沿って上昇してきた流れは界面よりもやや下向きにジェット状の流れを形成しているのが観察された.また,このときには接触線付近では大きな速度勾配に伴うせん断が発生しており,速度の勾配は接触線から10μmよりも近いところでも続いていることが明らかになった.
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