研究概要 |
本年度は,高S/N受音システムの構築をめざして,主に実時間移動音源定位システムの検討および最適化手法に基づく線形フィルタ学習法について検討した。まず移動音源定位法として,マイクロホン間の到達時間差に基づいたデータ選別法について検討した。データ選別法は,マイクロホンの受信音を離散フーリエ変換により,「時間一周波数」平面上に展開し,各「時間一周波数」点において到達時間差(位相差)から推定した音源方向のなかから正解と考えられる結果のみを複数の指標を用いて取捨選択して取り出す手法である。本手法は従来静止音源に対する手法であったが,本研究で目指している移動音源に適用するために新たな指標として,初期位置を既知とした場合に線形予測モデルを当てはめた場合の予測誤差を用い,移動音源の定位結果であるかどうか判定した。その結果,従来法に比べ,複数の話者が同時に存在する状況において,定位誤差を1/10程度に低減することが可能となった。つぎに,このようにして推定した移動音源方向をもとにマイクロホンアレーの指向特性を最適化手法に基づいて適応的に調整する手法について検討した。この手法では,目的音源方向を制約条件として,アレーに接続した線形フィルタのフィルタ係数を調整することにより,移動する騒音源方向に適応的にアレーのヌルを形成する。その際,騒音源方向が急激に変動した場合,従来法では数値的不安定性を生じ,抽出音のS/Nを著しく劣化させる原因となっていた。提案手法では,フィルタ係数の大きさを制約条件とし,最適化手法の1っである内点法に基づく学習アルゴリズムを用い,雑音方向が変動した場合でも数値的不安定性が生じないことを確認した。また,以上のシステムをディジタル信号処理システムとして構築する際に必要となる回路技術についても検討を行なった。
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