研究概要 |
構造物の信頼性に関する一般原則(ISO2394)に基づく設計規準の整合化が国際的に検討されており,今後,コンクリート構造物を対象とする設計規準においても,これに準拠する確率論的な概念を導入した限界状態設計法への移行が検討されると考える。 こうした背景のもと,RC構造物を対象とした耐震信頼性設計法に関する研究を進めており,ある地震動作用下の条件付破壊確率と目標破壊確率の差を最小化する最適化問題を解くことにより,構造系の信頼性を考慮した信頼性解析を行うことなく,目標破壊確率を概ね確保した設計を可能にする安全係数の算定手法を体系化している。ただし,この手法では,建設地毎の地震ハザードの相違を考慮できないため,提示する安全係数は,ある特定の地震動作用に対する構造物の破壊確率を目標値に漸近させているに過ぎない。超低頻度な領域で,地震動を確率的地震ハザード曲線に基づき評価することには,種々の問題が指摘されているが,設計規準の国際整合化や構造性能に対するアカウンタビリティが求められる流れの中で,今後は,設計地震動と構造物の耐震設計に用いる安全係数を同時に設定できる評価システムの構築が必要である。 一方,既存構造物の耐震や耐風安全性などを具体的な数値で提示するシステムの開発が進められており,例えば神田らは,建設地や建設年などの建物情報を入力することで,対象構造物の危険度を開示するシステムをインターネット上で公開している。これらのシステムでは,構造物の地震危険度は確率的地震ハザード曲線とフラジリティカーブの積を用いて表現されている。 そこで本研究では,確率的地震ハザード曲線とフラジリティカーブを用いた耐震信頼性解析を実施し,目標年破壊確率を有するコンクリート構造物を耐震設計することが可能な安全係数および設計地震力の設定手法を体系化した。本手法では,フラジリティカーブの作成を効率的に行うための工夫を施しており,将来的に,複数の限界状態を同時に扱うシステム信頼性を考慮する場合でも,目標信頼性レベルに漸近させる安全係数の設定を容易に行うことができると思われる。また,設計地震力から構造物の安全係数の設定までを包括する本提案フローの使用により,地震動評価に関わる圧倒的な不確定性が存在する中で,コンクリート構造物の耐震安全性を合理的に向上させるための情報などを得ることが可能となる。
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