研究概要 |
衛星リモートセンシングにより閉鎖性水域の汚濁物質の解析を行うためには,対象とする水域の光学モデルを構築する必要がある.そこで,本年度も引き続き,放射伝達モデルの評価のために,タイ王国のタイ湾で野外観測を実施した.昨年度はタイ湾全域を対象としたが,本年度は,無機性懸濁物質の濃度が非常に高いバンパコン河河口付近を観測対象海域とした.観測項目は,1)分光放射計により,各深度での上向き放射輝度および下向き放射照度,2)クロロフィルa量や懸濁物質(SS)といった水質項目,3)採水試料より,懸濁物質および溶存物質の吸収係数である.無機性懸濁物質の光学特性を推定するため,無機性懸濁物質の粒径分布,および吸収係数を測定した.これらの測定結果から,Mieの散乱理論により,無機性懸濁物質の複素屈折率を推定した.さらにこの推定した複素屈折率,および実測した粒径分布から,光学モデルで必要となる後方散乱係数を算出した. パンパコン河の河口付近では,無機性懸濁物質の濃度が非常に高く,その濃度は,数十から数百mg/Lに達した.無機性懸濁物質の粒径分布は,その濃度に比例し,粒径分布が大きい方へシフトした.本研究で用いたMie散乱理論は,10μm程度までしか計算できないため,無機性懸濁物質が高濃度であった地点では,後方散乱係数の推定を行うことができなかった.しかし,無機性懸濁物質が非常に卓越した海域での反射スペクトルの実測値を取得することができた.無機性懸濁物質の後方散乱係数の推定が出来た地点において,植物プランクトンや懸濁物質,有色溶存有機物の各光学特性をもとに推定した海面直下での反射スペクトルと放射計により実測した反射スペクトルとを比較した.先行研究の値と比較したところ,本研究で求めた後方散乱係数を使用した方が,よりよい一致を得られた.本研究により,無機性懸濁物質の光学特性を推定する方法を提案し,その有効性を示すことができた.今後は,この光学特性の一般化を行い,光学モデルを作成し,沿岸域を対象としたアルゴリムの開発を行う予定である.
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