研究概要 |
「ガラス化によってなぜ高イオン伝導性が出現するのか?」。これは、固体でありながら室温で電解質水溶液なみのイオン伝導性を示すことで知られる「高イオン伝導性ガラス」分野での究極の疑問である。本研究では、MI-As_2X_3(M:Ag,Cu,X:S,Se)系に着目し、イオン伝導度や熱物性などの精密測定、中性子回折、高エネルギーX線回折およびEXAFS測定を実施し、可動イオン周囲の環境構造とガラスネットワーク構造双方に対する詳細な解析を進めることで、ガラスにおける高イオン伝導性発現メカニズムの解明に挑戦した。 MI-As_2Se_3系は60mol%MI組成までバルクガラスが安定に得られ、そのイオン伝導度はMIの添加とともに指数関数的に増加することが分かった。MIを過剰添加したガラスの室温でのイオン伝導度は、MI室温結晶相の伝導度をはかるにしのぐ。EXAFS、高エネルギーX線および中性子線回折実験データに対する精密定量構造解析の結果、添加されたMIは、(1)AsSe_<3/2>ガラスネットワークの層間に二層分離的に溶け込むこと、(2)その時のM周囲の環境構造は、室温結晶相よりも歪みの度合いがかなり高くなること、(3)それによって室温結晶相には存在しないM-M近距離相関が生じること、(4)このような歪んだMI構造単位の連結によるMイオン伝導パスの形成が示唆されること、などの重要な知見を見出した。これに対し、As_2S_3系ではガラス化範囲も狭く、イオン伝導度の上昇も鈍い。構造解析の結果でも、添加MIとガラス母体であるAs_2S_3との間に明瞭な結合が生じ、Mイオンがガラスネットワークに消費されて、可動状態とならないことが判明した。これらのことから、ガラス中における高イオン伝導特性発現には、MI-As_2Se_3系のように擬二元混合状態が達成されていることが非常に重要であると結論付けられた。
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