研究概要 |
水素吸蔵合金を用いた小型水素酸素燃料電池の開発において、水素吸蔵合金から固体電解質として使用されるプロトン導電性酸化物への水素の輸率および移動速度が極めて重要なパラメータとなる。本研究では、酸化物層で覆われたチタン水素化物を作成し、2.8MeV He^<2+>イオンビームを用いた反跳粒子検出(ERD)法によって、チタン水素化物のバルクから最表面に形成された酸化物層への水素移動について調べた。 ジーベルト水素吸収装置を用いて、寸法10φ×1.0t mm^3、面心立方晶(δ相)のTiH_<1.95>およびTiD_<1.96>試料を水素ガス圧力と温度を調節することにより作製した。これらの試料表面には約10nmの酸化物(TiO,TiO_2)層が形成されていることがCAICISSおよびXPSを用いて確認された。423Kから488Kまでの範囲において等温加熱実験を行い、各加熱時間後に試料中に捕捉された水素濃度をERD法により測定した。 各加熱時間後のTiH_<1.95>およびTiD_<1.96>試料表面の水素濃度分布から、水素濃度は加熱時間の増加と共に減少し、50nm以下の最表面付近の水素濃度は200nm以上のバルク中の水素濃度より低いことがわかった。この深さに対する水素濃度勾配について、水素移動に関与する拡散、捕獲および脱捕獲を考慮した質量平衡方程式を用いて解析し、バルクから酸化物表面への水素のみかけの拡散係数および水素化物-酸化物層界面における水素の脱離係数を求めた。TiD_<1.96>試料におけるこれらの係数はTiH_<1.95>試料における係数よりも低く、同位体効果が観測された。また、みかけの拡散係数および脱離係数の活性化エネルギーはそれぞれ0.54±0.10および1.20±0.02eVと決定された。これらの値はそれぞれ4面体位置のトラップサイトおよび水素化物-酸化物層界面のポテンシャルエネルギーに対応すると考えられる。
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