研究概要 |
平成17年度は2回渡航して,訪花頻度データを補充するとともに人工授粉試験と結実率調査を行った。その結果,父島・母島では花粉制限と判定された種は帰化植物で少なく,広域分布種・固有種で多かった。このことは前年度報告した訪花頻度の偏りが結実に影響していることを示唆するものである。また,在来の訪花昆虫相が衰退した要因について島間の分布及び移入の経緯からグリーンアノールによる捕食の可能性が浮上した。この可能性を検証すべく飼育ケージによる捕食試験を行った結果,在来の訪花昆虫は旺盛に捕食するのに対して,毒針をもつセイヨウミツバチは全く捕食されなかった。このことは父島・母島にセイヨウミツバチとオガサワラクマバチだけが生き残っていることと符号する結果であった。このことから,小笠原の送粉系保全にはセイヨウミツバチの駆除よりもグリーンアノールの駆除を優先して行う必要があると考えられた。また,セイヨウミツバチは花外蜜腺に訪花する様子も観察された。このことは食害防止のための植物-アリ間の相利共生系に影響を与える可能性がある。この花外蜜腺を観察する過程で固有種テリハハマボウにおいて花外蜜腺が退化している現象が新たに発見され,海洋島特有の選択圧による現象であると考えられた。 個体数が非常に少ない絶滅危惧種に関して,ナガバキブシやセキモンノキにはセイヨウミツバチの訪花が全くなかった。また,ナガバキブシに関しては雌個体が少ないこともあって結実がほとんどないことが明らかになった。さらに,自生地では移入種ノヤギによる幼個体の食害と移入種クマネズミによる種子食害によって更新が絶望的であることが明らかになった。このことから本種に関しては更に詳細な現況調査と平行して,これらの移入種の排除,及び人工受粉等により結実した種子を育苗するなどの対策を早急に施す必要があると考えられた。
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