研究概要 |
Na^+/H^+交換輸送蛋白質は細菌から高等動植物まで生物に広く存在し,細胞膜内外のNa^+とH^+を交換輸送することにより細胞内pHやNa^+濃度を調節する極めて重要な因子である。Na^+/H^+交換輸送蛋白質は推定アミノ酸一次配列の比較からいくつかのタイプに分類できるが,NhaAと呼ばれるタイプの輸送蛋白質は大腸菌を初め多く細菌から見出されており,アルカリpHで強く活性化を受ける。一方,H.pyloriのNhaA(HP NhaA)は他の細菌のNhaAと高い相同性を有しているにもかかわらず,pHによらず高い活性を有している。本研究で行ったHP NhaAに対するランダム変異導入による解析から,pH応答性には第4,8,10膜貫通領域(TM4,8,10)が,また基本的なイオン交換輸送活性にはTM4,5,10,11が深く寄与していることが明らかとなった。さらに,私は,イオン輸送とpH応答性の双方に関与するTM4領域についてシステイン走査変異法とN-ethylmaleimideによる修飾実験を行い,TM4領域がNhaA分子内で親水性の小孔の一部を形成していることを強く示唆するデータを得た。また,TM4が形成する親水性小孔の上端部には,疎水的な脂質膜貫通領域中に唯一存在する極性残基であるThr,Asp残基が存在しており,変異体のKm,Vmax値の変化からこれら残基がNa^+の結合部位の一部となっていることが明らかにした。一方で,HP NhaAの大腸菌内での大量発現・精製系,およびリポソームへの再構成系を構築した。この系を用い,HP NhaAについて速度論的解析およびpH依存性に関する詳細な検討を現在進行中である。
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