研究概要 |
NELFはRNAポリメラーゼIIによる転写伸長を抑制することが知られる唯一の因子である.NELFの個体レベルでの機能を明らかにするため,NELFの4つのサブユニットのうち2つの遺伝子を破壊したマウスを作製した.NELF-E欠損マウスは一見正常に誕生し生育した.一方,NELF-A欠損マウスはE10.5以前で耐性致死となった.よく調べたところ,NELF-E欠損マウスはNELF-EのC末端側の約2/3を欠損したトランケート型タンパク質を発現していた.このC末端部分には,機能的に重要と考えていたRNA結合ドメインRRMが含まれる.NELF-Eの欠損がnullでないため断定はできないものの,以上の結果は,個体レベルでの生存に関してNELFの2つのサブユニットが対照的な要求性を示すという予想外の可能性を示した.NELF-A欠損マウスについて詳しく調べたところ,E8.5の段階で-/-変異体がメンデル律に則って見つかった.ただし,それらは一見するとE6.5に相当するような小さな胚(あるいは吸収途中と思われる残骸組織)であり,組織学的解析もそれを裏付けた.in situハイブリダイゼーションの結果によれば,NELF-Aは少なくともE8.5以降の段階で様々な組織に発現していた.以上の結果はNELFの要求性が極めて発生段階特異的に現れることを示しており,大変興味深い.そもそもNELFは転写を普遍的に制御する因子として我々が同定した.初期発生の過程で転写は2細胞期から始まっているわけだが,NELF-Aがなくても着床(E4.5)まで問題なく進み,E6.5あたりで突如として発達遅滞が引き起こされるという今回の結果は,我々にとって意外であり,NELFの遺伝子特異的な働きを明確に示すものと考えている.
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