研究概要 |
βIV-スペクトリンは、神経細胞の軸索起始部とランビエ節におけるスペクトリン細胞膜骨格の構成蛋白質であり、全長型アイソフォームΣ1と、N末端側の約半分の領域を欠くアイソフォームΣ6が存在する。私達はこれまでに、Σ1とΣ6をともに欠損した変異マウス(Σ1,6欠損マウス)を用い、軸索起始部とランビエ節におけるスペクトリン細胞膜骨格が、1)細胞膜を安定化する機能、2)活動電位の発火と増幅を行うため、これらの部位に電位依存性Naチャネルを高密度で局在化させる機能、3)軸索と細胞体の間における、細胞膜蛋白質に対する拡散障壁としての機能、という3つの機能を有していることを見出している。 βIV-スペクトリンのN末端欠失型アイソフォームΣ6は全長型のΣ1よりも10倍程度高発現していることから、その分子機能に興味がもたれた。そこで、2つのアイソフォームΣ1とΣ6がそれぞれどのような機能を担っているかを解明するため、昨年度においてΣ1のみを欠損させた変異マウス(Σ1欠損マウス)を作製し、本年度においてその解析を行った。 Σ1欠損マウスでは、Σ1,6欠損マウスと比べ、全身の震えや後肢骨格筋の硬直といった個体レベルでの神経症状が軽減されていた。さらに細胞レベルでの表現型を調べた結果、細胞膜の安定化機能、電位依存性Naチャネルの局在安定化機能、膜蛋白質に対する拡散障壁機能のすべてにおいて、Σ1欠損マウスではΣ1,6欠損マウスより表現型の回復が見られた。 以上の結果から、軸索起始部とランビエ節におけるスペクトリン細胞膜骨格の機能には、Σ1のみならずΣ6もまた重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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