研究概要 |
ヤチダモを対象樹種とした花粉散布モデルをさらに改良し,従来の正規分布に加えて,指数関数,ワイブル分布,t分布など,より自由度の高い散布函数を用いて,花粉散布パターンの推定を行った.新しいモデルでは,プロット内の散布曲線をプロット外へとスムーズに延長する方法を考案し,また,個体サイズや花の量などの効果をロジステック回帰して加えることにより,花粉散布全体の平均距離や散布型が精度よく推定できるようになった. この新たなモデルの開発により,これまで距離分布が不明となっていたプロット外からの花粉流動についても推定することができ,進化生態学的に重要な長距離花粉散布の実態把握への道が開かれたといえる(Molecular Ecology誌,投稿中).本モデルは,対象樹種としたヤチダモだけでなく,あらゆる植物種に適用可能である.実際,この手法の一部を採種園における花粉流動実態の調査に応用し,マツ材線虫病に対して抵抗性を持つクロマツ採種園における花粉流動パターンについて,マイクロサテライトマーカーを用いた解析を行った.その結果,採種園内に混入した不正規個体と採種園外からの花粉流入がそれぞれ数%ずつあり,その影響で経済的に損失が起こることを指摘した(Goto et al.2005.Silvae Genetica誌). ヤチダモの種子散布パターンについても,同じくMolecular Ecology誌に投稿中の論文で推定するモデルを開発したが,想像以上に遠くからの散布が起こっていることが示唆された.この長距離種子散布の実態を把握するために,タワーからの人工散布実験を行った結果,微風条件下ではほとんど全ての種子が散布高の2倍以内に落下することが示され(Goto et al.2005.Eco Res),野外では種子散布時期の強風や雪解け後の増水時における水散布が長距離種子散布に大きな役割を果たしている可能性が指摘できた.
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