研究概要 |
東海地方の断片化した里山における森林植物の遺伝構造の解明と保全技術の開発のために,1)自殖率の推定,2)水分生理特性の解明,の2項目の調査を行った. 1)自殖率の推定: 孤立林に生育するコバノミツバツツジの種子生産および自殖率に及ぼす要因を解明するために,津市観音寺町の孤立林においてコバノミツバツツジ17個体の開花時期,開花数,さく果数,さく果サイズ,さく果に含まれる種子数の計測を行った.また,母樹の個体数密度を半径2.5mの円について求めた.各母樹から得られた実生をアロザイム分析し,他殖率を推定した.その結果,集団では自殖がほとんど行われていなかった.一方,母樹ごとに自殖率がばらついたことは,有害遺伝子数に母樹間差があることが示唆される.母樹密度と結果率や自殖率との間には相関が認められなかった.結果率と自殖率との間に認められた正の相関は,近交弱勢の小ささを示すと推定される.以上の結果から,種子生産には自殖率だけではなく個体保有の有害遺伝子数の違いも関係すると推定される. 2)水分生理特性の解明: 孤立林に生育するコバノミツバツツジの生育状態を知るために,津市観音寺町の断片化した4つの林分に生育する個体群を対象に,樹冠上部の相対照度,葉の形態として葉面積ならびに葉の乾燥重量から算出した葉面積比,PV曲線にもとづく水分生理特性を測定した.光環境に順応した同樹種の水分生理特性ならびに暗い場所における死亡率の高さから,同樹種の生育には強光による水分ストレスよりも弱光条件が生残に影響することが明らかになった.
|