研究概要 |
イカナゴAmmodytes personatusの加入量予測を可能とするために,2003〜2005年に陸奥湾に出現した浮遊仔魚の分布密度,成長様式,成長率と生息環境を評価し,初期生残にかかわる諸仮説を検証した。 1,湾口部の産卵場から湾内に輸送されるイカナゴ仔魚の密度は,湾内への津軽暖流水の流入量に依存していた。 2,耳石日周輪解析によって求めた仔魚の孵化日組成は,3年間で若干のずれがみられたが,おおむね2月下旬から4月中旬に孵化した個体が多かった。 3,摂餌開始期のイカナゴ仔魚の主要餌生物であるカイアシ類ノープリウスと,大型仔魚が捕食するカイアシ類コペポダイトおよび尾虫類は,3年間ともに仔魚が捕食すると考えられる時期には低密度であり,ミスマッチとなっていた。 4,本研究における水温範囲(3.9-10.2℃)では,水温が高いほど仔魚の成長率も増加した。また,採集日直前の5日間の耳石の残差成長率も水温と有意な正の相関を示したが(r=0.15,P=0.03),カイアシ類ノープリウスの密度(範囲:13.0-35.0個体・L^<-1>)とは有意な相関はなかった(P=0.55)。 5,24日齢以下の仔魚(主に脊索屈曲完了前仔魚)のうち,高成長率個体に偏って多く生残しており,低成長率個体は被食されやすいか,摂餌能力が低いために死亡しやすいものと推定された。 陸奥湾におけるイカナゴ浮遊仔魚の生残には,湾内への輸送,高水温によって成長停滞が生じないこと,ボトムアップ効果が働いて餌密度が高まることの3条件をすべて満たす必要があり,いずれが欠けても高い生残率は期待できないことが明らかになった。近年の漁獲量の低下も,低水温化でよく説明できた。
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