研究概要 |
有毒渦鞭毛藻のAlexandrium tamarenseやA.catenellaは生活史の一時期に休眠して不適な環境を海底上で生残するステージ(以下シストと呼ぶ)を形成する.シストは栄養細胞増殖の種(たね)としての役割を果たすため,個体群動態を解明するためにはシストの発芽動態を把握することが必要不可欠である.平成15年度においては,「現場海底泥上における発芽細胞を直接捕らえる装置」の開発を目指しこれに成功した.この成果によって,海底から発芽してくる細胞を簡便に捕らえることが可能となった.平成15年度はさらに,A.catenellaが出現しこれまで二枚貝類の毒化被害が発生している三重県の英虞湾をモデル海域として,同湾における"本種の個体群形成機構"を解明すべく現場調査を開始した.すなわち,本装置を用いた発芽細胞の実測調査を行うとともに,水柱中にプランクトン群として出現する栄養細胞の季節消長を調べた.また同時に,水温や水中光強度,栄養塩といった物理化学的環境要因を測定した.平成16年度は15年度に引き続いて同様の調査を実施した.長期にわたるこれらの調査により得られたデータを総合的に解析したところ,本種のシストは周年海底から発芽しているものの,その発芽量によって栄養細胞個体群の規模が決定されるのではなく,水柱中の物理・化学的環境によって制御されていることが明らかとなった.また,これらの環境要因のなかでも,水温が本種の出現と個体群の規模を決定する最大の要因であることが示唆された.そこで平成17年度は,英虞湾産のA.catenella株を用いて,本種栄養細胞の増殖に与える温度の影響を評価するための培養実験を行ったところ,様々な水温に対する細胞の増殖応答を詳細に明らかにすることができた.この結果により,現場海域におけるA.catenella栄養細胞の季節消長を水温を用いてはぼ説明することが可能となった.以上の成果により,本研究の目的として設定されていた"シスト形成性有毒渦鞭毛藻の個体群形成機構"を,英虞湾のA.catenellaを例に解明することができたと判断される.
|