研究概要 |
本研究はコアマモZostera japonicaが形成する海草藻場(以降コアマモ場と呼ぶ)が魚類に果たす機能,および,その構造が魚類に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 研究期間を通して行った群集構造の調査により,周囲の砂泥地などに比べてコアマモ場に生息する魚類の種数・個体数は多く,また,水産上重要なものも含む様々な種の稚魚がコアマモ場を成育場として利用していることがわかった. コアマモ場の生態系におけるエネルギーフローの構造を調べる第一歩として,コアマモと無脊椎動物,および魚類数種を採集し,体組織の窒素と炭素の安定同位体比の測定を行った.さらにデータを蓄積する必要があるが,現在までのところ,コアマモ場では基礎生産者としてのコアマモ自体の役割は相対的にかなり低い可能性があることなどが示唆されている. コアマモ場に出現した稚魚のうち,個体密度の高かったハゼ科の浮遊稚魚の微細生息場所を精査したところ,コアマモ場内の砂地パッチやコアマモ場の際の空間など,構造的には複雑でない場所に多く出現していることがわかった.このような分布パターンは神奈川県油壼のアマモ場で観察されたハゼ科浮遊稚魚の分布パターンとほぼ同様であった.そこで,室内の水槽中で海草藻場を再現してその構造を様々に操作し,さらに捕食者等の条件も加味した実験を行うことにより,なぜこれらの稚魚がそのような分布パターンを示すのか,調べた.その結果,稚魚は必ずしも構造的に複雑な場所(海草の密度が高いところ)を選好しないこと,また,そのような場所で必ずしも被食率が低くなっていないこと,などが示唆された.一方,これらとは異なる分布パターンを示した種もあった.したがって,海草藻場造成の際,種多様性の回復・維持を目的とする場合,種によって海草藻場の構造とその分布パターンなどとの関係は大きく異なることを考慮しなければならないと考えられた.
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