研究概要 |
ミクロネシア海域で採取されたホヤNephteis fasicularisからスクリーニングにより発見された抗腫瘍性三環性海洋アルカロイドファシクラリンの不斉全合成を検討した。その結果,研究代表者が以前に確立したアシルニトロソDiels-Alder反応を鍵反応とするラセミファシクラリンの合成経路(28工程,通算収率0.9%)と比較し,極めて効率的な短工程合成経路を確立することに成功した。 すなわち,N-Boc-2-ピロリジノンを出発物質とし分子内に共役ジエンを有する長鎖ケトアミドへ導いた後,アシルイミニウムイオンを経由する一段階アザスピロ環化反応を行いアザスピロ[4.5]デカン骨格を構築した。次いで不斉還元,分子内脱水環化反応を行った後,ファシクラリンの基本骨格とは異なるパーヒドロピロロ[2,1-j]キノリン骨格を有する一級アルコールへ導いた。このものに光延反応条件下チオシアン酸アンモニウムを作用させチオシアノ化を行ったところ短時間(15分)で反応が終結し,一級チオシアナート及び二級チオシアナート(ファシクラリン)の1:1混合物を収率91%で得た。得られた一級チオシアナートはアセトニトリル中室温で72時間攪拌すると,チオシアノ基の脱離によるアジリジニウム中間体の形成続く再チオシアノ化による環拡大反応が進行し,収率91%でファシクラリンへ導くことができた。 今回確立したアザスピロ環化反応及びアジリジニウム中間体を経由するチオシアノ化を適用する本合成経路は,N-Boc-2-ピロリジノンより11工程と短工程であり,また通算収率は21%と極めて効率的な合成経路であるといえる。また本合成品はキラルHPLCにより単一エナンチオマーであることが確認され,比旋光度の符号が-(マイナス)を示したことから,(-)-ファシクラリンの最初の不斉全合成を達成することができた。
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