研究概要 |
MartinellineおよびMartinellic acidはpyrrolo[3,2-c]quinolineを基本骨格として有する初めての天然物として,1995年に単離されたアルカロイドである.その特異な構造と非ペプチド性ブラジキニンレセプターアンタゴニストとしての生物活性から有機合成化学者の興味を集め,それらの合成研究が盛んに行われている.著者の研究室ではオキシムエーテル類をラジカル受容体とする付加閉環反応の開発研究を展開している.その過程で,申請者らは共役エステルを有するオキシムエーテルをラジカル反応条件下に付すと,ラジカル付加閉環脱離反応が進行し,pyrroloquinoline誘導体が一挙に得られることを見出した.本年度申請者は上記の反応を用いたMartinellineの全合成を試みた. はじめに,cis-pyrroloquinolineの8位へFriedel-Crafts反応によりアセチル基を導入した.4位への側鎖の導入に関しては,5位の窒素原子上の置換基を有効利用する2つの方法を考案した.すなわち,アミジンを活用するイオン的な方法および2-ブロモベンゾイル基を活用する1,5-水素移動型ラジカル反応による方法である.モデル化合物を用いて2つの方法を検討した結果,1,5-水素移動型ラジカル反応を用いると,側鎖を導入できることがわかった.そこで本反応をcis-pyrroloquinoline誘導体に適用したところ,4位への側鎖の導入に成功した.続いて官能基変換により,D.Maらにより報告されているMartinelline合成中間体に導くことができた. 以上のように,ラジカル付加閉環脱離反応と1,5-水素移動型ラジカル炭素-炭素形成反応の2種のラジカル反応を組み合わせたMartinellineの形式的全合成を達成した.
|